事業再生・M&A

事業再生・M&A

倒産防止のための事業再編ステップ2

STEP 1

事業課題を設定する

STEP 2

事業再編手法を特定する

STEP 3

各対策の実行

STEP2事業再編手法を特定する

ヒト(従業員・取引先)の再編

A) 従業員の休業 ※労働基準法

会社都合で従業員を休業させるには、労働基準法26条に基づき、平均賃金の60%以上の休業手当を支払う必要があります。そして、雇用調整助成金などの政府による支援を活用することで、会社の負担を減少させることが可能(助成金の額には上限あり)です。
ただし、休業により人件費が抑えられるかどうかは事情によってさまざまで、大きく4パターンがあります。

事業再編手法を特定する

B)人員削減(退職勧奨・解雇・雇止め) ※労働契約法

人員削減の方法には、退職勧奨による合意退職と使用者の一方的な意思表示による解雇・雇止めがあります。合意退職であれば、労働者の意思表示に瑕疵がない限り、法的なリスクはほとんどありません。しかし解雇・雇止めの場合は、労働契約法16条や19条に基づき、法律上無効となるリスクがありますので、実行するには証拠収集と適正手続をきちんとすることが必要です。

C)取引先の見直し ※下請法

取引先との契約は原則として労働法の適用対象でないため、労働契約法のような厳格な規制がかかることはありません。しかし、下請法上の規制が適用される場合もあるので、自社が親事業者で取引先が下請事業者に該当する場合(下請法2条)は、不当な発注取消や発注内容変更が禁止される(下請法4条)など、注意が必要です。

モノ(不動産・在庫・設備等)の再編

A)不動産の処分・担保設定 ※民法、破産・民事再生法

債務の圧縮や債務の弁済猶予を目的に、不動産を処分して現金化したり、特定の債権者のために担保設定をしたりすることが考えられます。しかし、債務弁済の資力が失われてから不動産の処分をすると、債権者が詐害行為取消権(民法424条)を行使することで不動産の売却が取り消される可能性があり、万が一将来に破産や民事再生をする場合に処分や担保設定の効力が否認(破産法160条・161条・162条、民事再生法127条・127条の2・127条の3)される可能性があるため注意が必要です。

B)在庫の処分・担保設定 ※民法、動産・債権譲渡特例法、破産・民事再生法

不動産と同様に、在庫等の動産についても債務の圧縮や債務の弁済猶予を目的に処分して現金化したり、特定の債権者のために担保設定をしたりすることが考えられます。特に動産においては、動産・債権譲渡特例法により法人の動産譲渡につき動産譲渡登記ファイルに譲渡の登記をすることで対抗要件を具備することが可能なため、資金調達手段としての活用が考えられます。
しかし、不動産と同様に詐害行為取消権(民法424条)の行使や否認(破産法160条・161条・162条、民事再生法127条・127条の2・127条の3)の可能性があるため注意が必要です。

C)事業拠点の縮小・撤退 ※民法、民事再生法

オフィスや工場など事業拠点の縮小・撤退を検討する場合、不動産また は動産の処分だけでなく、賃貸借契約の解約を検討することがあります。賃貸借契約の解約には通常、事前告知や原状回復等が求められるため、賃貸人との家賃減免交渉や政府の家賃支援給付金等を通じて解約せずに維持するか、契約条件に従って解約するかの検討が必要です。なお、仮に会社が民事再生を申し立てた場合、民事再生法49条により、契約の定めに関わらず契約毎に解除か履行かを選択できるという特殊な権限が与えられます。

カネ(売掛金・貸付金・買掛金・借入金)の再編

A)売掛金・貸付金の回収・債権譲渡・ファクタリング ※民事保全法、動産・債権譲渡特例法

売掛金・貸付金が弁済期を過ぎてもなお回収困難な場合、弁護士に債権回収を委任して取引先の財産を仮差押え(民事保全法20条)したり、サービサーと呼ばれる債権回収会社(債権管理回収業に関する特別措置法2条3項)に債権譲渡したりすることで回収を図る方法があります。これに対し、売掛金の弁済期が到来する前に資金調達の手段として売掛金を譲渡するのがファクタリングです。債権譲渡とファクタリングは、動産・債権譲渡特例法により法人の債権譲渡につき債権譲渡登記ファイルに譲渡の登記をします。どちらも対抗要件を具備する点で同じですが、弁済期到来後と到来前という違いがあります。

B)公租公課・買掛金・借入金の弁済猶予(リスケジュール) ※国税通則法、民事執行法、破産・民事再生法

売上減少により弁済期どおりの買掛金支払や借入金返済が困難な場合、公租公課(税金・社会保険料等)の支払猶予制度を活用するほか、仕入先や金融機関に対し弁済猶予(リスケジュール)を求めることが考えられます。その場合、会社の経営状態・資金繰り・将来の弁済見込み等に関する正確な情報を提供し、弁済猶予の合意を得ることが重要です。
複数の金融機関から借入れがある場合は、中小企業再生支援協議会の再生計画策定支援を受けることも考えられます。もっとも、仮に合意が得られない場合は債務不履行(デフォルト)状態となり、滞納処分(国税通則法40条)や差押え等の強制執行(民事執行法22条)が行われたり、「支払不能」(破産法2条11号、民事再生法93条)に該当すると評価されれば特定の債権者への弁済が否認(破産法162条、民事再生法172条の3)されたり、相殺が禁止(破産法71条・72条、民事再生法93条・93条の2)されたりするなど大きな影響が生じ得るため、弁済猶予の合意を得ることは極めて重要です。

C)新規融資(政策金融公庫、信用保証協会の信用保証付き融資、自治体融資、保険・共済)

売上減少等で資金繰り困難な場合に、政府系金融機関(日本政策金融公庫、商工組合中央金庫)による融資や、民間金融機関の信用保証付き融資、各自治体による融資、保険・共済の契約者貸付など、新規融資を検討することが考えられます。これらは、売上が対前年比で減少したことを示す証拠資料を用いて申請する必要があります。もっとも、仮に新規融資を受けても将来の売上回復が見込めない場合、負債の拡大は連帯保証債務の拡大にもつながり得るため、慎重な判断が必要です。仮に将来の売上回復が見込めない場合は、抜本的な業態転換や事業の縮小・他社へのM&Aなども検討する必要があります。

D)債務整理(私的・法的)

ヒト・モノ・カネの再編をしてもなお資金繰りが続かない場合は、いわば最後の手段として債務整理すなわち債務の減免等を行うことが考えられます。債務整理には「私的整理」と「法的整理」がありますが、裁判所を通さずに金融機関との債務調整だけを行うのが「私的整理」で、裁判所を通じて取引先等の全債権者を対象に行うのが「法的整理」です。法的整理には会社の存続を前提とする「民事再生」と会社の存続を前提としない「破産」があります。

事業(事業譲渡、M&A)の再編 ※民法、会社法、破産・民事再生法

ヒト・モノ・カネの再編を個別に積み上げるだけでなく、事業の一部また は全部を他社(スポンサー)に譲渡し、譲渡代金を原資に新たな事業の再構築を図ることが考えられます。非主力事業を譲渡して主力事業に専念する場合もあれば、有望事業を譲渡して残った会社を債務整理するいわゆる「第2会社方式」を取る場合もあります。
譲渡手法には株式譲渡(会社法127条)・事業譲渡(会社法467条)・会社分割(会社法762条)などがあり、事業の規模・取引先の数・許認可の有無・繰越欠損金の有無などさまざまな事情を考慮して最適な手法を選択することになります。また、スポンサーからのデューディリジェンス(買収調査)に対応し、最終契約に結び付ける必要があります。
いわば事業の一部を処分することになるため、不動産や動産の処分と同様に、詐害行為取消権(民法424条)の行使や否認(破産法160条・161条・162条、民事再生法127条・127条の2・127条の3)の可能性があるため注意が必要です。