専門家ブログ Expert Blog

Q:秘密保持契約書(NDA)における秘密情報の除外規定はどうチェックしたらよいですか。[契約審査]

執筆者
甲本晃啓 弁護士

甲本晃啓 弁護士

プロフィール

今回は、秘密保持契約書(NDA:Non-Disclosure Agreement)における秘密保持義務の除外規定や、法令に基づく開示義務との関係を中心に解説をしたいと思います。

秘密保持契約書とは、新規の取引の検討や実際に取引を行うにあたり、企業秘密を含む企業の内部情報について、互いに安全にやりとりをするもので、第三者に開示したり、目的外で使用したりしないことを保証する契約書です。

1 除外規定の一般的な構成

NDAでは、多くの場合、企業秘密について「秘密情報」(または「機密情報」ともいいます。)として、保護対象としますが、同時にいくつかのパターンにおいて、それらから除外する規定が設けられているのが一般的だと思います。

例えば、一般的な除外規定をあげると、次のとおりです。
次の各号にあたる情報は「秘密情報」から除外する。
(1)開示の時において既に公知である情報
(2)開示の時において受領者が既に保持していた情報
(3)開示後に、受領者の責に帰すべからざる事由により公知となった情報
(4)開示後に、正当な権限を有する第三者より受領者が秘密保持義務を負うことなく得た情報
(5)受領者が機密情報によらず独自に開発した情報

除外されるパターンの1つは、公開されて秘匿の利益がなくなった場合で(1)と(3)がこれにあたります。また、独自ルートで持っている情報について、たまたまNDAにより開示されてしまうとその情報がつかえなくなるのは不都合なので、(2)、(4)や(5)の除外規定が設けられています。

なお、ひな形のなかには「情報」について「立証しえた情報」のような記載がありますが、訴訟法の観点も持ち込むもので妥当ではありません。各除外事由の「情報」にあたるかどうかは、その除外の効果を主張する者に立証責任があるのは当然の話だからです。

2 ひな形に余分なものが入っていませんか?

筆者はNDAのリーガルチェックを月に何十件と行っていますが、この除外規定の内容として上記(1)〜(5)に加え、「法令に基づき第三者へ秘密情報を開示する場合」(以下「法令に基づく開示」といいます。)が追加されたNDAを一定の割合で見かけます。

実際に契約書にあった表現をそのまま記載します。

・法令、法律または裁判所もしくは国の機関等の命令、要求、または要請に従い開示される情報
・管轄官庁もしくは法律により、開示が義務付けられた情報

趣旨を善解すると、法令に基づく開示をするときに、NDAとの抵触を避けたい意図があるものと思います。しかし、明確に誤りです。結論からいうと、
○ そもそも記載は不要(論点1)であるうえ、
○ また、これを除外規定に記載と重大な弊害が生じます(論点2)

論点1/法令に基づく開示について記載が不要である理由

個人に情報の開示義務を規定する法令は強行法規であると解されており、NDAにいかなる相反する定めがあっても、NDAの締結を理由として、法的義務を回避(開示を拒否)することはできません。従って、開示をしなければ、法令違反について法的責任を負うことになります。また、法令に基づく開示は、契約上も「正当行為」として扱われるので、NDAの契約違反を構成しません。

論点2/除外規定に列挙した場合の弊害

この表現を記載した場合、意味としては「今後、誰との関係においても、秘密情報として取り扱わない」ということになります。いったん法令に基づく開示をすると、以降は、誰に対しても契約上の秘密保持義務がなくなってしまうので、明らかに不都合が生じます。

実際、不都合が生じる例として、特許法105条2項には、特許侵害訴訟における損害額の算定に必要な文書の提出を被告が拒否する場合に正当な理由があるか否かを審理するために、裁判所だけに対して当該文書を開示させ、裁判官がその中身を見て判断するというインカメラ審理手続が定められています。この場合、同条は「何人も、その提示された書類の開示を求めることができない。」として、原告側にも第三者にも公開されることは絶対にありません。もう少し、身近な例で言えば、税務調査において、資料として機密性のある契約書や技術資料を提出した場合に、公開される訳でもないそれらの文書について秘密保持の対象から一般的に除外することは妥当でないということは、容易に理解いただけると思います。

もちろん、特定の行政庁や証券取引所などの公的機関への法令に基づく報告事項などは、開示された情報の全部または一部がそれらの機関を通じて一般公開されることもあります。しかし、これについては除外規定の(3)にある「受領者の責に帰すべからざる事由により公知となった情報」として扱えば足りる問題です。

まとめ

以上を簡単にまとめると、

○ 秘密情報の除外規定に法令に基づく秘密情報の開示を入れるのはNG

となります。NDAをリーガルチェックされる際には、参考になさってください。

この記事は執筆時点での法令および裁判例等の状況に基づいており、以降、現在までの法改正や裁判例の追加を踏まえたものではありませんので、ご留意ください。
専門家ブログトップへ