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Q:秘密保持契約書(NDA)はどのタイミングで締結するのがベストですか。[契約審査]

執筆者
甲本晃啓 弁護士

甲本晃啓 弁護士

プロフィール

今回は、秘密保持契約書(NDA:Non-Disclosure Agreement)って、いつのタイミングで締結したらいいの、という普遍的なテーマについて解説をします。

1 秘密情報を開示する前に結ぶのが鉄則

秘密保持契約書とは、新規の取引の検討や実際に取引を行うにあたり、企業秘密を含む企業の内部情報について、互いに安全にやりとりをするもので、第三者に開示したり、目的外で使用したりしないことを保証する契約書です。身も蓋もありませんが、保護したい秘密情報を相手方に開示する前、開示を受ける前に結ぶのが鉄則です。

2 契約交渉の開始前に締結する必要がある

あまり意識がされていませんが、例えば
● 契約交渉をしている(特定の取引について計画がある)こと自体、上場企業ではインサイダー情報ですから、秘匿性があり、企業秘密として保護するべき場合があります。
● 契約条件たとえば具体的に料金表を提示したり、ディスカウントに関する提案は、安易に競業に開示されてしまうと困りますので、これも企業秘密として保護するべきでしょう。

つまり、これから契約交渉をしようってときは、具体的な話をする前にきちんとNDAを取り交わすことを習慣づけることが必要です。

ちなみに、その場合のNDAで気をつけるべき点としては
(1) 開示目的について「甲乙間の○○契約の締結交渉の目的」などとの具体的に記載をすること
(2) 目的外の秘密情報の使用を禁止する条項を入れること
(3) 有効期間は契約交渉に必要な期間(例えば、数ヶ月)だけでよく、「ただし、目的とする○○契約の締結したときは、本契約は終了する。」という形で終わりを記載すること(※なお、自動更新条項は不要)
をしておくとよいでしょう。

これから契約交渉がまとまり、これから具体的な取引の契約(例えば、業務委託契約)を締結するという段階になってから、NDAを締結するのでは「遅すぎる」ということに注意をしてください。

3 業務委託契約に秘密保持条項があれば、原則としてNDAを重ねて締結する必要はない

はい、NDAを別途締結するケースも多いですが、基本的には業務委託契約書など取引に関する契約書において秘密保持義務を定める条項があれば、NDAを別途締結しなくてもよいです。重複するからです。ただし、注意点があります。

A) 別途NDAを締結したほうが良い場合

(1)NDAのほうが条項が厚い場合
→ 業務委託契約書の秘密保持条項は、NDAに比べて規定が簡素であることが多いです。例えば、第三者開示について社内や専門家に対して許容する規定や、法令に基づく開示の際の事前通知の規定まどまでは定められていないことがほとんどどでしょう。機密情報について特に敏感な部類の取引や相手方との契約であれば、一般的なNDAのほうがより詳細で具体的である規定が厚い(条項として分量が多い)ので、業務委託契約書とは別にNDAを締結するメリットがあります。
(2)受託開発業務委託契約など、長期にわたり継続的に秘密情報のやりとりが見込まれる場合など
→ 契約後ごとに秘密保持義務を定めるより、包括的なNDAを締結し、担当者による連絡、保管・開示のルールなどを画一化しておくことが契約管理上メリットがあります。

B)NDAと業務委託契約書の秘密保持条項との競合

NDAを別途締結する場合の注意点です。
業務委託契約書にも秘密保持条項がある場合は、条項の競合(コンフリクト)に注意が必要です。

業務委託契約書の秘密保持条項を次のように変更すると、NDAを参照できるので、競合の懸念がなくなります。

4  秘密情報の開示が一方通行でも通常のNDAの締結がお薦め

例えば、業務委託契約の発注者側なので、当社は先方へ秘密情報を開示するだけであるから、秘密保持「契約書」(双方型NDA)ではなく、先方が秘密保持を誓約する書面(「誓約書」等)を差し入れてもらえばいいのでないかというご相談を受けます。

これについては、先方がそれでよいと言っていて、かつ自社でそのような誓約書を用意できるのであれば、自社側の秘密保持義務を削除した誓約書を書かせても構いません。

とはいえ、お薦めは「いつも同じ,秘密保持契約書(双方型NDA)のひな形で契約する」です。
理由は次のとおりです。

○理由1 相手から秘密情報の開示を受けないときは、N双方型NDAに基づくの秘密保持義務も発生しません。ですから、誓約書を作成するメリットがあまりないです。
○理由2 契約書のバリエーションが増えるので、契約管理コストが増える
○理由3 業務委託契約の受託者側から逆に業務を通じて得たノウハウが提供されることもあり、そのような場合に備えてNDAは締結しておくと、情報の開示を受けやすくなります。

5  三者間でのNDAは、通常のNDAで代用できる。

なお、契約当事者が3者となるNDAがないときは通常の2者間のNDAでなんとかなります。例えば、製造委託契約で、受託企業側が「企画・開発」で1社と「製造」で1者と2つの企業が関与している場合、発注者を含めると3者となります。この3者で、秘密情報をやりとりする際、通常の2者間のNDAで足ります。

具体的には、
(1)それぞれ、通常の2者間NDAを締結する(甲乙間、乙丙間、甲丙間)。
(2)秘密情報の第三者提供について当該NDAの契約当事者でない者を記載する。
という形で対応するとよいでしょう。

以上、簡単ですが、NDA締結の時期や、締結シーンにおいて良く相談を受けるポイントについての解説でした。

この記事は執筆時点での法令および裁判例等の状況に基づいており、以降、現在までの法改正や裁判例の追加を踏まえたものではありませんので、ご留意ください。
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